ご挨拶

このたび、2025年9月30日付で
「一般社団法人 日本人作品と音楽文化の会 Vacances Musicales」を設立いたしました。

音楽は本来、あらゆる時代と地域の人々が心を通わせ、生きる力を見出してきた人類共通の文化です。
その中で「クラシック音楽」は、長い歴史の中で培われた記譜体系と思想的伝統をもち、教育や社会の基盤に深く関わりながら、芸術としての普遍性を追求してきました。
今日ではその精神が世界各地で再解釈され、地域固有の文化や感性と結びつきながら、新たな創造のかたちを生み出しています。

日本でも、明治の開国以来、西洋音楽の理念や技術を真摯に学びつつ、日本独自の詩情や自然観、社会的感受性を融合させることで、多様な表現を育んできました。
近年、山田耕筰、吉田隆子、諸井三郎、芥川也寸志らの作品が急速に再評価されていることも、日本が世界の音楽文化の中で自らの声を再び見つめ直す、自然な流れの一つと言えるでしょう。

クラシック音楽をはじめとする芸術的音楽は、その習熟のために高度な専門教育と長い鍛錬を要し、真価が理解され、愛されるまでに時間を要することも少なくありません。
だからこそ、その知識や技術を限られた領域にとどめるのではなく、市民社会へと開き、文化の共有財として還元していく精神――すなわち「ノブレス・オブリージュ」の思想が求められます。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートが、団員自らの意志によりその収益を病院や教育機関に寄付していることは、まさに音楽が公共性を担うひとつの象徴です。

私たちは、閉鎖的な階級意識や序列的価値観を超えて、プロフェッショナルと愛好家、市民がともに音楽の奥深い喜びを味わい、その力を信じ合える社会を育てたいと考えています。
音楽は、言葉を超えた内面世界を育みながら、多様性と共同性を両立させる文化的営みです。
「クラシック音楽」が追い求めてきた「高みと深み」もまた、他の音楽や芸術との対話の中でこそ生き続けるものであり、その意義は常に社会全体の中で問われ続けていくべきだと考えています。

これまでの活動――「山田耕筰ピアノ音楽プロジェクト」や「日本のソナタ・プロジェクト」、あまり演奏されない作品や新作を紹介する「ディスカバリー・シリーズ」、音楽絵本や楽譜の出版、CD・音源制作など――はいずれも、こうした理念のもとに展開してまいりました。
そしてこのたび法人化を果たしたことで、より多くの方々のご助言やご助力を仰ぎながら、音楽文化を社会全体の共有財として育み、その発展に一層貢献していきたいと願っております。

演奏家・作曲家・教育者・愛好家が垣根を越えて協働し、
音楽を通して人と社会をつなぎ、文化の循環と精神の豊かさを育てていくことが、私たちの願いです。

ぜひご一緒に、日本の音楽文化をともに育て、世界の文化的対話の一翼を担っていけましたら幸いです。
今後とも温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

代表理事
高久 弦太・杉浦 菜々子